江木姉妹小伝(1)

さてこれからしばらく、暇を見つけて連載企画を組んでみたい。
タイトルは『江木姉妹小伝』である。扱う時代は幕末から昭和戦前期まで。
登場人物は実在の人物ではあるが、日本史上ではほとんど知られていない人
たちである。

そもそもの発端は、とある女性の日記にある。
知人の母親の友人のお母さん(遠いな^^;)の日記で、昭和5年(1930)に実
際に書かれたものである。今、これをお借りして読んでいるのだ。彼女は別
に有名人でもなんでもなく、たいした事件が起きるわけでもないのだが、戦
前期のごく普通の市民の生活が見えて、妙に面白く読んでいる。
昭和5年(1930)といえば、日本史の中でも明治・大正時代と戦争時代という
ハデな時期にはさまれていて、あまりメジャーな時代ではない。おそらく、
江戸川乱歩黒岩涙香などの小説やその亜流で扱われる以外は、あんまり知
られていないのではないだろうか。だがちょっと調べてみると、世はまさに
世界恐慌のまっただ中。翌年には満州事変。銀座ではモボ、モガが闊歩し、
エロ・グロ・ナンセンスが流行っていた時代なのであった。この日記の書き
手は当時山梨県に住んでおり、夫を亡くして女手ひとつで子供を育てている。
そのため東京市を中心とする最先端の流行に乗るということはないのである
が、当時活発であった自由主義運動には共感を覚えている。
ともかく日本が近代化していくまさにその時にいるのである。

日記というのは、特に人に見せることを意識したものではないので、本人に
しか分からない事が当然あたりまえのようにさらりと書いてあるワケで、読
んでいてもなかなか難しい。人名についても、家族知人関係が分からないの
はあたりまえだが、時代が時代だけに時事ニュースに登場する人物もなんだ
かよく分からないものが多い。この日記の昭和5年2月22日(土)にこんな記述
がある。

「夕飯の仕度も出来たけれど子供が帰らないので一寸新聞を見せて貰ひに行く
 江木栄子女史が自殺した事があって總選擧の番狂はせなどより驚た」

さてこの江木栄子とは誰だろう?と思った。

<続く>