江木姉妹小伝(18)

現在でも手軽に読むことができる栄子の文章はないのだが、実はひとつだけ、漫画
夏目房之介が書いた『男女のしかた』(ちくま文庫)に、江木欣々が書いたといわ
れる『女閨訓』が抄録されている。されてはいるのだが、これがまたすこぶるつき
にアヤシいのだ。
このタイトルを見てピンと来たアナタは鋭い。これは女性向けに書かれた房事の指
南書、ありていに言ってしまえば「HOW TO SEX」なのである。あえてさわりだけ転
載するとこんな感じ。

  昔の女は此のことを欲せざる風する事が静淑にして慎み深きものなりと考
  えたる様なれども、そは最も誤りなり。(略)仮令(註:たとえ)眠りに
  就きたると雖も静に男根を探りて之を弄び、其の堅く大きくなるを待ちて
  我から仕掛けて、女陰にくわえ込み、ひしと抱き付きて夫を目覚まさば、
  夫も亦思いがけざる歓待に驚き喜び狂わん許りに感謝の念を以て之を迎う
  るは必定なるべし。殊に夫が他の女を想い或は他処に情婦等の出来たる折
  は一層気を付けて、屡々(註:しばしば)我より持掛け夫の情を取り戻す
  様につとむべきなり。斯る時には前に述べたる様にして無理にも毎夜の如
  く乗り掛けて其精液を吸い取り常に夫の精の臓を空にして置く時は夫の心
  に他の女の想う余裕なくなりて我身のみ可愛しと思う様になるものなり。
  【女閨訓/伝・江木栄子】

もっとすごい事が書いてあるのだが、このページがアダルトコンテンツに指定され
ると困るのでここまでにしておく。興味のある方は本を買って一読されたい。
 『男女のしかた』(夏目房之介著/ちくま文庫
さてこの文章は伝・明治39年刊とされているが、当時栄子は衷と結婚していて何ひ
とつ不自由ない生活をしていたし、先に書いた女性活動も始めていた。いまさらこ
んなことをしているとは考えられないし、そもそもあちこちに見聞きする栄子像に
はそぐわない。これは「芸者あがりで大物法学博士をたらしこんで結婚し、また、
一時廃娼運動に反対していた」ということから、想像力がたくましい誰かがそのイ
メージを利用して、栄子の名を騙って書いたものであろう。まあ少なくとも、好き
者にはそういう目でも見られていたという証拠でもあるのだが。

<続く>
まとめては<A HREF=http://www.cc.rim.or.jp/~hustler/archive/egi.html>こちら</A>