弥次郎(3)

弥:安心して歩いていたら、後ろの方でね、うーッってうなり声がするンです。この山は喘息持ちかなってね
旦:そんな
弥:振り向いてみたら驚いた。六尺もあろうかというライオンが・・・
旦:お前のはみんな六尺もある
弥:たてがみを風になびかせ、百獣の王
旦:お前が登ったのは、南部の恐山だろ? あんな所にライオンがいたのか?
弥:よくよく見たらハミガキの看板で。安心して歩いたら、またうなってる
旦:よくうなるね
弥:ふっと見たら大きなイノシシが角ふりたてて飛んで来やがる
旦:お前、イノシシはあれはキバだろう。牙あるものに角はないってぇじゃないか。
弥:ところがそれがずーっと延びて角みてぇに見えた。あれで突かれたらおしまいだ。どっかへ逃げよう。ふっと見たら大きな松の木が生えてましたンで、これぇよじ登って、まつ(松)安心
旦:なんでぇ
弥:イノシシは利口だね。木の周りをぐるぐるぐるぐる回りだした。ときどきどしーん、どしーん、とぶつかってきやがる。ゆすり落として喰っちまおうってンで。木がぐらぐら揺れるから、気(木)が気じゃぁない
旦:なんだ
弥:だんだん上へ登って穂先に行って気が付いたら、旦那の前ですが、松の木じゃなかったんですよ
旦:なんだい
弥:竹だったんですねぇ
旦:お前ねぇ、いくら慌てたからって、松と竹とじゃえらい違いだ
弥:ところがあのへん行くと、何百年も甲を経た古い竹がいくらも生えてる。ええ、ウロコやなんかついてるからね、これが木みてぇに見えた。ほぉら木じゃない、竹でしょ。穂先の方行ったら、うーーーーーーーん。しなってきた。落っこっちゃあてえへんだ。下ぁイノシシが歩いてる。しがみついてナムアミダブツ。イノシシがどしーん!とぶつかるから、途端でしたよ。ぱーん! ぱーん! パーン!なんて、竹のフシが割れてね、大きな音がしたンです。そうしたらそのイノシシ、鉄砲で撃たれたかと思ったらしい、コロッ・・・・倒れちゃった。うまくね、助かりました。で、側へ行って覗いてみたら、まだ死んじゃあいないんですから、当人は鉄砲で撃たれたと思いこんでンですから、瞼がぼちぼちぼちぼち動いてる。こりゃいいってンで仕留めてやろうかと、ぱぁっと飛び降りてシシ乗りになりまして
旦:馬乗りだろ
弥:いや、ありゃ馬に乗るから馬乗り。あっしのはシシですからシシ乗り。