花見頃近し。

<B>『酔って候』</B>(司馬遼太郎/文春文庫)読了

司馬遼太郎というのはとっても巧い作家である。すんごく読みやすいのだ。
その上面白い。史実を相手にしながら、上手くフィクションを織り交ぜて
分かりやすく、かつ史実を浮き上がらせてくれる。歴史に対する見方が安
定しているので、主人公を引き立たせるために、周囲の人間を必要以上に
貶めるようなこともない。まあ、ファンが多いというのも頷ける。
この短編集は、幕末の賢候と呼ばれた大名たちのアンソロジーで、土佐藩
山内容堂薩摩藩島津久光宇和島藩伊達宗城佐賀藩鍋島閑叟の4人で
ある。但し伊達宗城を扱った「伊達の黒船」の実質的主人公は、嘉蔵とい
う平民である。この話が一番面白い。
時代が変革する時期ってのは、偉人・傑人・才人・凡人・悪人が群雄割拠
して登場してくるので、面白い時代である。幕末マニアが多いのも分かろ
うというものだ。

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続いて、
<B>『欧米掃滅』</B>(トム・クランシー+スティーヴ・ピチェニク/新潮文庫)読了

オプ・センターシリーズの3冊目。もうひとつの共著「ネット・フォース」
シリーズより安心して読めるが、クランシー単独の小説におけるカリカリな
ハードボイルドさがあまりなく、少しばかりアットホームな雰囲気がある。
まあ、ソ連というあまりにも強大な敵がなくなってしまったので、しょうが
ないといえばしょうがないのだが。やはりだれか悪者をひとり立てなきゃい
けないあたりにムリがあるんだよなー。いくら巨大企業を牛耳っていたって、
個人が世界的陰謀を企むのは、往年のヒーロー物じゃないんだから、無理が
あるのだ。うーん、この手の軍事スリラーもののジャンルは、これからどう
なってしまうんだろうねえ。